あけましておめでとうございます。新野安です。


2018年はアウトプットが増えた年でした。なんといっても夏から始めた同人活動で、『〈エロマンガの読み方〉がわかる本』『〈エロマンガの売れ方〉がわかる本』と二冊の本を執筆・編集したことに、これまでの活動を形にできた満足感がありました。稀見さん、泉さん、たけのこ星人さん、へどばんさん、自分が強く影響を受けた方々に仕事をお願いできたのも嬉しかったです。また雑誌では、『ユリイカ』の岡田麿里特集・山本直樹特集、『フィルカル』の推論主義企画、『マンガ論争』の2018年マンガ総括企画に参加しました。特に山本直樹特集に寄せた論考は、以前から自分のテーマとして持っていたエロマンガ史の捉え方を文章化する機会になりました。さらに、文フリのペーパーで『ガラスの仮面』、ブログで『serial experiments lain』と、自分のフェイバリット作品に関する文章を発表できました。

2019年も同人活動は続けていく予定で、早速夏コミに向け準備を進めております。また、文フリで発表した『ガラスの仮面』論に「①」とナンバリングをしましたが、このシリーズは今後も書き継いでいきます。今年も一般・18禁問わずいろいろなテーマで語っていきたいです。よろしくおねがいいたします。

前置きが長くなりましたが、2018年エロマンガベストテンを発表したいと思います。去年同様、無理に順位をつけずベスト10を挙げます。「エロさ」も、いわゆる「ストーリー」の面白さも、どちらも(エロ)マンガの魅力であって、面白ければOK。というスタンスをベースに選びます。当然ですが、私が読んだ作品から選んでいます。網羅的に2018年のエロマンガをチェックしているわけではないので、その点ご了承ください。


・きぃう『なんでも調査少女+』


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『マンガ論争』で同人誌発の商業単行本をテーマに文章を書きましたが、同じ枠からの一冊。
「エロのわんこそば」とでもいうべきか、数ページ1シチュエーションを超速で連続に叩き込みまくる。
即堕ち2コマイラストにも近いですが、きぃう先生の濃いエロ演出によって、個々のおわんのカロリーは非常に高いです。一気に食べて胸焼けしましょう。


・香吹茂之『搾精女子』


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香吹茂之先生が展開してきた狂気のような数式群、今回はSM×本格ミステリです。「雄鳴館殺人事件」シリーズを収録しています。
あまりにも真面目にパロディした結果対象と同化してしまうのが香吹作品の美点ですが、今回もさりげない伏線とロジカルな謎解きでしっかりしたミステリに仕立てています。
麻里邑圭人さんも指摘されてるごとく謎や真相の見破り方がエロマンガ的で面白いんですが、ネタ自体は実は既存の本格にも出てきたりしますよね?アレとか。ともかく、作者の新たな代表作でしょう。続編希望!


・ここのき奈緒『PIECES』


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全員妊婦さん!まずこの攻め攻めな表紙が素晴らしい。
ここのき奈緒先生の絵柄は非常に端正で華麗。その印象とヒロインたちの重そうでずっしりしたボテ腹のギャップにやられます。
また、快感によってヒロインの精神が理性の境界を超える、陶酔の演出が見事です。お話のバラエティも豊かで飽きさせません。


・無望菜志『魔剣の姫士』


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触手純愛大ファンタジーロマン。ページ数の不足から不完全燃焼に終わった『Tentacle Lovers』(2008)の完全版という趣です。
「世界と仲間を救うため多くのキャラクターが次々集まり力を貸してくれる」シチュエーション(「私を忘れてもらっては困るな!」みたいなやつ)、そこにともなう友情・愛情・熱血。
ちょっとエロマンガに載せられなさそうな感情をセックスの最中にブチ込む力技に、何を読んでるのかわからないままテンションは上がる怪作&快作です。もうちょっと長く読みたかったかも。


・高津『人妻Aさんと息子の友人Nくん』


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読んだ時、「ポスト山文京伝だ!」と思いました。
隠れてのセックス「隠姦」がテーマと帯にありますが、隠れるスリルより、セックスしながら同時に母としての顔を子供に見せる、二面性を同じ場面に併存させることがポイント。作品は引き裂かれたヒロインの内面に潜っていきます。
あと、精液が溜まったコンドームに婚約指輪を入れるシーンは間違いなく2018年瞬間最大風速記録でした。今年色々ありましたが、高津先生は実力ある方だと思いますので、復帰を楽しみにお待ちしております。


・猿駕アキ『FORK IN THE ROAD』


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「それが面白いのは知っとるわ!」と寝取られ好きの声が聞こえますが、まあ単行本で初めて読む方もいるでしょうし、加筆修正入ってますから。
名作同人誌の商業化。いわゆるマジカルチンポで堕ちるタイプの作品とは一線を画し、遠距離恋愛や社会的地位の差など外堀のすれ違いから浮気への流れを構築しています。
元はかなりラフな画風なんですが、全面的に書き直されて読みやすくなってますので、これから読む方は是非単行本版をどうぞ。


・ふくまーや『ふわとろ』


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今年一番ヒロインに魅せられた一冊。
「ザ・美少女」的イメージから微妙にズレた、しかしそのズレが最高にかわいい女の子。短いページ数の中で、彼女たちの魅力を説得する「殺しのコマ」がきっちり用意されています。
個人的に印象深いのは短編「未体験ゾーン」、一緒に突っ込みながらバカ映画を観てたらなしくずしで……というシチュが、ツボに入りすぎて思考盗聴を疑うレベルでした。


・越山弱衰『艶事に染まる』


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同人誌で見て以来待ちに待った越山先生の初単行本は期待に違わぬクオリティでした。
まず、顔や体型に憂いや疲れを感じさせる熟女さんたちのキャラクターデザインが素晴らしい。複数回射精も含むじっくりした責めに晒されて、ぐったりした彼女達を捉えた大きなコマが印象的です。
また、短編「師妻艶武」は、限られたページに「実はヒロインは間男と関係を持っているのでは?」と焦りを誘うパートをきっちり入れ込んでます。寝取られはクライマックスになる間男とのセックスシーン以外にも勘所がいろいろあって、短編エロマンガでやるのが難しい面もあるんですが、やはり定番が抑えられているとグッと盛り上がりますね。


・比良坂冬『比良坂ラメント』


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非セックスシーンにも比較的多くページを取り、人物の関係性を丁寧に積み重ねていくスタイル。同じジーオーティーの消火器先生とかにも近いです。
ただ、アール・ヌーヴォー的意匠も取り込む華美で情報量の多い画面、食人やガンアクションといったバイオレンス要素、短編のオチに見え隠れするホラーのセンス、世界に馴染めずとも強く孤高であろうとするゴシックな精神への傾倒、セリフやモノローグを多層的に組み合わせた時に難解ですらある語り口など、なかなかマニアックな世界が展開されています。
こう書くとサブカル寄りに思われるかもしれませんが、様々な要素がきちんと「強くてかっこよくてエロいヒロイン」に統合されているのが素晴らしいところ。「明らかに自分と同じものが好きな人だ」と思ったので、今後も活躍してほしい。次も楽しみです!


・可哀想『堕性イズム』


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越山先生同様、同人誌で注目していた作家さんの初単行本です。
堕胎セックスとか、部位や動きの強調のためにヒロインの体型すら変えたりとか、プレイも表現もエクストリームなのが可哀想先生。商業作でどうなるのか気になってたんですが、いつも通り超ハイテンションなエロを楽しめます(流石に堕胎はないけど)。
もう一つ本作のポイントは、熟女さんたちの年齢や性経験に関わるコンプレックスを狙ったひどすぎる言葉責め&自己卑下。みじめ可愛いヒロインさん達の中には、なんと孫にいじめられる白髪のお婆さん(短編『OVER CHANGE』)も。ロリババア以外で二世代間セックスとは……。


以上です。去年は個人的に好みなジャンルでクオリティの高い作品が多く楽しい年でした。商業から同人へという流れもあって、そろそろ同人誌は商業化単行本を待つのではなく同人誌として扱わないといけないかなという感じもします。なんにせよ、今年どんなエロマンガが読めるか楽しみです。ではでは。