あけましておめでとうございます。

2017年はひたすら原稿を書いてました。
『フィルカル』に書いた「『忠臣蔵』と『神無月の巫女』」、『ユリイカ』志村貴子特集に書いた「惰性と潜伏」、『マンガ論争』に書いた2017年エロマンガ概観、そしてまだお伝え出来ない記事が一本と、後半は(大変ありがたいことに)切れ目なく記事執筆の仕事がありました。
また前半でもブログにエロマンガ評論の記事を投稿して(傾向音『寝取られ妻との性生活』香吹茂之『美脚が欲しいんでしょ!?』、ゴージャス宝田『キャノン先生トばしすぎ! ぜんぶ射精し!!』その1その2アシオミマサト『クライムガールズ』赤月みゅうと)、文章でのアウトプットが増えた一年でした。
Webラジオ『エロマンガ夜話』『OVA夜話』での発信は今後も続けていきたい一方で、やはり整理された議論を提示するには文字のほうがよいですし、今年もどんどん書いていければと思います。

当ブログや『エロマンガ夜話』で新刊レビューをすることはあまりないのですが、毎年ベスト10は出してます。
前回まではランキング形式でしたが、今回は無理に順位をつけずベスト10を挙げます。選考基準として、エロさだけでも、いわゆる「マンガ的な面白さ」だけでもなく、エロマンガとしての総合的な価値を考えます。また、すでに『マンガ論争18』で2017年の重要作を選びましたが、そちらよりも私自身の価値観を前面に出したチョイスにしています(ただし、いくつか重複もあります)。

当然ですが、私が読んだ作品から選んでいます。網羅的に2017年のエロマンガをチェックしているわけではないので、その点ご了承ください。


・皐月みかず『君の眼鏡は1万ボルト!』


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一冊丸ごと眼鏡っ娘で揃えただけで結構なもんですが、本作の真価は、眼鏡描写をキャラクター表現にまで昇華しているところにあります。
人物の性格によってフレームを使い分け、果てはキャラクターの成長を眼鏡の変化によって可視化する……
眼鏡愛の暴走の果てに、表現としてのより普遍的な面白さまで獲得してしまった作品です。


・chin『サクセックスストーリーズ』


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お話や人物の内面といった要素は潔く切り捨て、ヒロインのボディとシチュエーションが生むエロさに振り切っています。
同人作、初単行本と比べると身体描写力の向上が著しく、この極端な戦略を支えるだけの剛腕をついに得た感があります。
エロマッサージ、バニーガールなど、AVっぽいというかオヤジっぽいセンスも憎めない一冊。


・墓場『女教師 市川美由紀』


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墓場先生は今まで、『公開便所』『けだものの家』と、物理的にはもちろん精神的にもバイオレントな、ストーリー性の強い重量級の作品を送り出してきました。
今回は打って変わってシンプルな調教譚です。その分エロ作家としての地力の高さがわかりやすく露出しています。
決定的な場面で顔を描かないなど、ヒロインを徹底的に「モノ」に擬す演出が随所で効いており、ストレートにエロい一作です。


・ピジャ『ねぇ…しよ♡』


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絵が上手すぎる。以上。
と済ませたくなるほどの画力です。読んでてびっくりした。
特に描線が絶品。太さをダイナミックに変えながらも、しかし立体として破綻がありません。奇跡的なバランス。
個性も十分で、熱に浮かされたような細目の表情が艶っぽいです。


・きい『群青ノイズ』


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絵が上手すぎる。以上(その2)。最小限のインクで最大の効果を上げるタイプの研ぎ澄まされた画風。
マンガとしての演出も巧妙です。とくに短編「-10」は、「打ち上げ花火」というガジェットにこんな使い方があったのかと唸らされます。同作では「ひゅー、ドン」と空に花開いた光は画面に一度も登場しません(ちょっと見切れるコマはありますが)。にもかかわらず花火がいかにしてロマンティックな瞬間を創造するか、ぜひ確認してみてください。


・DISTANCE『じょしラク!2 Years Later』


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女子ラクロス部のエロ騒動を描く長編作品の二作目。
前作『じょしラク』は登場キャラクターが皆愛らしく、彼女たちがわちゃわちゃしているのを見るだけで楽しめました。
今回は新入部員が登場しさらにドタバタがパワーアップ。とにかくラブコメとして愉快です。
毎回毎回の終わらせ方もヒキが強く、ついつい一気に読んでしまいます。
学生ヒロインが多く妊娠ネタをやりにくい中、唯一「孕ませOK」な熟女枠・五月先輩の再登場&再懐妊が個人的に嬉しかったです。


・ひげなむち『桂さんちの日常性活』


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ひげなむち先生の「ナガサレ」作品群には、実はアンチ「寝取られ」アンチ「堕ち」とも言える性格があります。
というのも、「ナガサレ」スタイルは、すでに十分エッチな女性に欲望を開放する言い訳を与えることに本質があるので、「かつては清純なあの子がこんなに淫乱に変わってしまった」ギャップエロとはある点でかみ合わないのです。
本作の表題作となる長編では、ヒロインが完全に「堕ちる」ことなく、破滅と日常の中間で永遠に爛れた日々を送るという、いわば「終わりのない終わり方」が選択されます。正しく「ナガサレ」の完成形でしょう。


・高津『SはフラジールのS』


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日焼け・褐色男子サイコー!待ちに待った高津先生のショタ単行本。
調教から始まるイチャラブを描いた長編作も素晴らしいですが、短編「ご主人様と奴隷の妻」にも注目したいところ。
筋肉質・褐色でセックスでは攻め役である主人公が、しかし実は受け役の色白で女性的なショタによって、無理やり犯され奴隷化されている。ありきたりな構図を裏切るエロさが幾重にも折り重ねられています。



・ビフィダス『キミを誘う疼き穴』



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おなかに力を加える「腹責め」へのこだわりや、孕ませ描写の豊富さ、「堕ち」を印象付けるための幼いセリフ回しなど、見どころは多いです。が、キラー短編「雨宿りのミカ」がとにかく良い。
自分の気持ちを表現しない(できない)野良猫のような少女ミカ。心が通じない苛立ちから暴力的なプレイに走る主人公。
コミュニケーションが成立せぬままセックスだけが過激化していく虚しさ。そして、最後の小さな数コマによってもたらされる電撃的な理解。
「ジャンクエロ」のような印象もあるエンジェル倶楽部に載ったのがちょっと驚きな、抒情性に溢れる一品です。



・児妻『金曜日の母たちへ』



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母子相姦テーマの一冊。
熟女の超豊満な身体を丁寧な陰影処理で描く。さらに構図によって肉を徹底的に強調する。特にお尻好きにはこたえられない一作でしよう。
美人でもかわいくもない、ヒロインの顔の野暮ったいデザインは、首から下のピーキーさと強烈なギャップを作ります。セックスから遠ざかっているはずの人物が実は……という、熟女・実母ジャンルのコアをわかりやすく具現化していると言えましょう。



他に印象に残った単行本としては、内々けやき『ニンフォガーデン』、りょう『キズモノオトメ』、安藤裕行『パコパコビッチ☆~メガ盛り!ましまし!ドスケベ肉』、掘出井靖水『父と娘の性愛白書』あたりがそれぞれに傑作でした。

今年はコミケで長文エロマンガ評論を集めた同人誌を出そうと思ってますので、その作業を頑張ります。2018年もどうぞよろしくお願いいたします。