毎週金曜日のエロマンガ時評企画。今回はアクオチスキー先生のプリキュア悪堕ち同人誌、『汚された聖泉 AFTER DARK』を取り上げる。3/20発行なのでちょっと遅めのレビューだが、ぜひ紹介したいので許してちょ。

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悪堕ちとギャップ

本作は去年5月発行の同人誌『汚された聖泉 悪夢の放課後』の続編だ。前作で敵の手に堕ちてしまったヒーリングっど♥プリキュアの3人が、結集したプリキュアオールスターズを倒し、悪の尖兵として改造していく。

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さて私は今回この本を読んだことで、自分の中にある悪堕ちとはこういうものだという概念を、ちょっと考え直すきっかけになった。

私は今まで、悪堕ちというのはつまりギャップだと思っていた。白いコスチュームで、聖なる力を使って、正義のために戦う高潔で清純な戦士が、黒くて露出の多いコスで、邪悪な闇を纏い、ありとあらゆる反道徳を犯す悪党に変わってしまう……。はっきりした正義がはっきりした悪に落ちる、その対比からくるショックこそが悪堕ちのエロさのキモだと。前作の『汚された聖泉 悪夢の放課後』では、キュアフォンティーヌが堕ちたダークフォンティーヌなるオリジナルプリキュアが登場したりするが、この変化も概ねギャップのエロさとして理解できるものだった。

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ただ本作『汚された聖泉 AFTER DARK』はちょっと違う。今回は既に述べたようにオールスター本であるから、登場するプリキュアがあまりに多い。そのため薄い本一冊では、一人ひとりについて堕ちる前/堕ちた後を丁寧に対比する余裕がない。でも本作を私はめちゃめちゃエロいと思った。なんなら前作よりエロいと思う。

不気味なものとしての悪堕ち

ではどこがエロかったか?例えば、ダークグレースによって闇の胞子を植え付けられたオールスターズが、身体中から花を開かせ、人間としての精神と身体の機能をダメにされてしまった様子だ。

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このシーン、相当気持ち悪いし怖い。エロというよりホラーと感じる人も多いだろう。なぜ怖いのかといえば、攻撃を受けたプリキュア達が一体なんなのかよくわからない存在に変化してしまうのが怖いのだ。体から花を生やした彼女達は、動物なのか植物なのか?視線はあらぬ方向に飛んでいるが、はたして意志はあるのかないのか?寄生した花はプリキュアにとって他者なのか、それとももうプリキュアは花と一体化してしまっているのか?様々な境界がグズグズになっている。

強い意志を持って倫理を執行するヒーロー、正義として絶対的な定義を受けたはずの存在が、その定義を破壊され、なにがなんだかわからないものになる。ここにある不気味さ、怖さ、そしてエロさは、正義と悪とのギャップとは異なるものだ。きちんと定義された正義からきちんと定義された悪へ変化しているわけではなく、定義された正義から「定義」など成り立たないカオスへの変化なのだから。

もう一つ、似たようなエロさを持ったシーンがある。改造されきった後のプリキュアが、いつもの姿から、巨大な怪人に変身する、その中途形態。体の各部が歪に巨大化し、手も足もあらぬ方向に曲がり、もはや人間的シルエットはかけらもない。その姿は、『AKIRA』に登場する鉄雄のようだ。プリキュアの可愛く魅力的なキャラクターデザインが崩壊し、確固たるシルエットを持たない肉塊に変化する。ここでも、定義の崩壊が恐怖とエロさを生んでいる。

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考えてみれば本作ほど徹底していなくとも、他の悪堕ちもの・洗脳ものの中に、確かにこういうエロさはあった気がする。例えば身体中に電極を繋がれ洗脳装置にかけられ、なすすべもなく痙攣するだけのヒロインを見れば、「彼女」は意志を持った人間なのか、電気刺激に反応するだけの肉塊なのか、わからない。やはりそこには、確固たる定義を破壊された不気味なものが顔を覗かせている。確かに悪堕ちはそもそもそういうジャンルでもあったかもしれないと、私の狭い悪堕ち観を更新してくれる傑作だった。