毎週金曜日更新のエロマンガ時評企画。今回はサークル我流痴帯(作家:TANA)の新刊『欲と欲』を取り上げる。言わずと知れた対魔忍シリーズを題材に、このサークルが書き継いできた8Pの会場限定本を、一冊にまとめた総集編である。
誇り高き肉奴隷たち
みんな大好き対魔忍シリーズ。強く凛々しい忍者ヒロインたちがメタメタに調教され、快楽に溺れる淫乱と化す。敵だったはずの男に自分の人生を捧げ、惨めな肉奴隷に堕落させられる、そういう作品である。
しかし、長らく調教ジャンルを愛好していて私はよく考えるのだが、「快楽に溺れる淫乱と化す」ことと、「自分の人生を男に捧げる肉奴隷になる」ことは、実は別のことではないか。
もちろん、それまで世間的な道徳に従って生きてきたヒロインが、調教役の介入によって自分の価値観を改造されセックス好きと化すのは、それ自体ある意味で自分の人生を他人に明け渡すことではある。しかし見方によっては、外部からの刺激によって、新しい自分に目覚めただけとも言える。
新しいエッチな自分に目覚めたとして、世の中に男なんか星の数ほどいる。いや男じゃなくても性欲を満たす方法なんかいくらでもあるんだから、別に特定の男に付き従うことには何の必然性もない。またたとえ特定の誰かに自分の全てを捧げたとしても、それは尊厳を持った自覚的な選択かもしれない。誇り高くビッチであること、あるいは誇り高く肉奴隷であることは、あたりまえに可能なはずだ。
こうした問題意識を読み取ることのできるエロコンテンツは実は決して少なくないが、本作をはじめとするTANAの対魔忍同人誌には特に顕著に現れている。調教ものの代名詞たる作品を元ネタに持ってくることで、よりテーマが鮮烈に浮かび上がっている。
「おまけ本」と思えぬ熱意
本作に収録された作品から具体的な例を挙げてみよう。特にわかりやすいのは、「奴隷娼婦凜子 寝獲り返し」だ。対魔忍の凜子は、娼婦として犯罪組織へ潜入する中で、リーアルという男の調教を受け性奴隷に堕ちる。彼女に淡い思いを抱いていた弟の達郎は、それを知り絶望する……ここまでが原作『対魔忍ユキカゼ』のお話。本作はその後、達郎が凜子をもう一度寝取るifストーリーである。この話だけ聞くと、ヒロインを男二人が奪い合う話と思われるかもしれない。その想像はちょっと違う。
立場逆転、こんどは寝取られる側になったリーアル。血の涙を流し悲しむ彼を見て、凜子は黒い快感を覚える。彼女は自分が何者だったのか初めて気づく。「私はリーアルに堕とされたんじゃない」「もともと…力づくで奪われて 裏切って 愛した男を絶望させるのが…好きだったんだ」そう、リーアルだろうが達郎だろうが、彼女はずっと自分の欲望を満たすために、調教者を利用してきただけだったのだ。
むしろこの話で尊厳を投げ捨てているのは達郎の方かもしれない。彼は凜子を取り戻すために、自分に肉体改造術を施し、引き換えに精神の安定を失った。さらに、自分のチンコでは彼女を感じさせられないので、彼女を犯してきた男たちのチンコを移植している。それで彼女を取り戻したとして、それは本当に寝取り返したことになるのか?もはや彼はそんな疑問を持つことすらできない。凜子が彼を狂わせたのだ。
物語の最後、再び凜子は奴隷娼婦として潜入任務につく。また彼女は別の男に墜とされるのだろう。そしてまた達郎が凜子を堕とす。甘美な連鎖へ歩み出す凜子の表情は喜びを湛えている。彼女は男たちに奪われ合う宝ではない。真の主導権は彼女にある。「寝取り」させる、「寝取られ」させる、男たちを操る主体は、あくまで凜子なのだ。
驚くべきは、原作を大きく読み替えるこんな複雑な話を、会場限定の8P本でやっていることである。本書に収録された掌編は全部こんな感じなのだ。正直、情報量がキャパシティをオーバーしているものもある。だとしても、いやだからこそ、この熱意には圧倒させられる。対魔忍好きはもちろん、一味違う調教エロマンガが読みたい人はぜひ買って欲しい作品だ。