毎週金曜日更新のエロマンガ時評、今回は黒青郎君の『永世流転』を取り上げる。ロリババア専門誌『永遠娘』に掲載された連作短編「永世シリーズ」を集めた一冊だ。
いきなり結論から述べると、この単行本、めちゃめちゃ面白い。『永遠娘』は全巻買っているので、作品も一部は読んでいたはずだ。しかし、単行本でまとめて読んではじめて魅力が理解できた。
著者の黒青郎君は台湾の作家で、本作が初単行本となる。といっても、それは日本の商業本が初めてということであって、台湾では『聊斋夜画 狐魅』という18禁単行本もあるし、サークル「三色坊」で日本語版同人誌も既に何冊か出している。こんな異様なマンガを描く作家を今まで認識できていなかった人たちは私と一緒に恥じ入って、今後の活動をちゃんとウォッチするように(何?)。
では、何がそんなに面白いのかというと、なんとこの単行本、エロマンガであると同時に、オカルト的な歴史ミステリマンガでもあるのだ。以下、ちょっとネタバレが入ってくるので、何も情報を入れたくない人は今すぐ書店に走ってほしい。
衝撃のロリババア神話
シリーズ第1話「永世の香り」は、古代中国は漢(紀元前202-後220)の時代、とある薬屋の離れで暮らす少女がヒロインである。彼女は不老不死の力を持っており、体液を薬として提供していた。やがてその力を根こそぎ奪おうとする当主に命を狙われ、彼女は屋敷を去る。そして時代は唐代、西暦760年前後に下る。第2話のヒロインの元に彼女は現れ、「徐福」と名乗る。
徐福というのは、秦(紀元前221-207)の始皇帝に不老不死の薬の捜索を命じられ、3000人の童男童女と共に船出して、帰ってこなかったとされる人物である。その謎めいた足跡からいろんな伝承やフィクションの種になっており、なんと旧約聖書に登場するヨセフ=ジョセフ(=ジョフク)との関連を云々する説まである。徐福本人、あるいは徐福に連れられた誰かがこのヒロインで、本当に不死の力を得て永い時を生きてきた、ということなのだろう。
これだけでもだいぶマニアックである。ただ、面白いのはここから。徐福の不老不死を得ようとする者は、みな力を身に受け止めきれず、醜い肉塊と化してしまう。シリーズ第4話で、徐福はこの肉塊を「太歳」と呼ぶ。そして第5話で、姿だけ人に戻った太歳がヒロインとして登場するが、その見た目はどうみたってキョンシーなのだ!
太歳は中国妖怪のひとつだ。地中を移動し自己再生能力を持つ肉塊であり、不老長寿の薬の原料になるとも言われている。キョンシーは言わずと知れた中国ゾンビである。
つまり、徐福、太歳、キョンシーという、一見全く別物に見える中国オカルトネタは、実はある一人のロリババアを通じて全てつながっているのだ!諸星大二郎かよ!(実際、徐福も太歳≒視肉も、諸星のマンガに登場している)
本書ではこの他にも、様々な伝承・歴史事象が、一つの物語の中に織り合わされていく。「一見無関係なものが実はすべてつながっている」というのは、オカルトとか批評の根源的快感のひとつだ。私はそういうの大好きなんで、本書は脳汁ドバドバであった。また、「徐福」とか「太歳」みたいなワードをポンと出しておいて、詳しく解説しない不親切さが心地いい。私なんかは無知なので調べないとついていけないが(↑の解説もちょっとググってでっちあげたもの)、その分周辺知識とともに楽しむことができた。
歴史ロマンならではのエロさ
こう書くと本当にエロマンガなのか怪しくなってくるかもしれない。でも、本作はちゃんとエロい。例えば悠久の時の流れの中であらゆる物事に飽いた徐福が、それでも生を実感し心を埋める手段としてセックスを求めるシーン。こういう壮大な歴史ロマンを背景にして初めて成り立つようなエロさが、本作にはある。
惜しむらくは、ちょっとセリフが詰め込まれすぎ。限られたページ数で、エロシーンをある程度入れて、この情報量の話をやるとなると、しょうがない面もあるとは思う。個人的には本作のように、エロシーンがちゃんとエロくて、かつエロシーンと非エロシーンが連携しているのであれば、非エロシーンの割合がもっと増えてもらっても構わない。
単行本でまとめて読んで、カバー下の年表も読んで、前提知識をいろいろ調べて、初めて全貌を楽しめる作品なので、ちょっととっつきづらいのは確かだ。でもハマってしまえば他にないエロマンガ体験ができる。『永遠娘』は「ロリババアが出てりゃなんでもいいだろ!」とばかりに、百合だったりバイオレンスだったり尖ったマンガを載せてきた。そんな攻めた編集方針が功を奏した一冊と言えるだろう。