あけましておめでとうございます。新野安です。

2018年に続き2019年も『〈エロマンガの読み方〉がわかる本2 特集:NTR』『〈エロマンガの読み方〉がわかる本3 特集:chin』と2冊のエロマンガ評論同人誌を製作しました。作家さんへのインタビューを実施したり、紙面の方向性を少し変えたり、いろいろ挑戦してみましたが、概ねご好評を頂いているようでホッとしております。また文フリでは『ガラスの仮面』論の2本目を書きました。本にできるくらい書き継げればいいなと思います。

早くも5月に次のコミケが控えております。ここではエロマンガ評論本はお休みして、ゲーム『サクラ大戦』シリーズの評論本を製作する予定です。あと細々と続けてきたWebラジオ「エロマンガ夜話」が7月で5周年なので、なんかやります。よろしくお願いします。

前置きはこのへんにして、今年も2019年エロマンガベストテンを発表したいと思います。

  • 無理に順位をつけずベスト10を挙げます。
  • 「エロさ」も、いわゆる「ストーリー」の面白さも、どちらも(エロ)マンガの魅力であって、面白ければOK。というスタンスをベースに選びます。
  • 実験的に同人誌を取り上げてみることにしました。2018年冬コミの作品は対象内、2019年冬コミの作品は対象外とします。

要09(ヤドクガエル)


同人誌です。女装少年本『要』シリーズに一応の決着が打たれた一冊。

まず主人公要くんのキャラデザが魅力的。「女装すると女の子みたい」というより、ただ女装が似合う。男装すればカッコいい。そして裸も美しい。

要くんは男と寝る自分を受け入れられず、女装することで別人として切り離してきました。この09ではついに男装のまま恋人とセックスします。最後に彼が流す涙の理由は何か。安心や嬉しさなのか。悲しみや諦念も含まれているのか。明確には語られません。未整理な感情を未整理なまま叩きつけるラストが印象的でした。

紳士付きメイドのソフィーさん4(めとろのーつ/つめとろ)


こちらも同人誌。メイドさんとご主人様の恋愛シリーズです。

つめとろ先生と言えば、マシュマロのようにふわふわで、非現実的なほど丸っこい女体です。本シリーズでも存分に堪能できます。

忘れてはいけないのが竿役エドワードくんの可愛さ。この4作目ではかつてソフィーさんを抱いていた別のご主人様が現れるのですが、狼狽えるエドワードくんが情けなくも愛らしい。今一番推しの同人誌シリーズです。

夢で東に、現で西に。(回転ソムリエ/13.)


同人誌。フェラチオオンリーです。フェラチオ好きなので選びました(堂々)。

本作はシチュエーションが非常に複雑です。主人公・修晴は清楚な雰囲気の六陽さんに恋していますが、淫夢に出てくるのはセクシーなギャルの千代。彼女にするなら六陽でも、肉便器にはしたいのはあたしだろう、そう彼女は挑発してきます。彼女は兄妹同然の幼馴染なのに……ここまででも十分な背徳性があります。

さらにもう一つひねりが加わります。実は主人公は六陽に睡眠薬で眠らされお口でレイプされているのでした。見物する千代は、自分の名前が寝言で呼ばれて赤くなったりします。二重三重の逆転で主人公のダメさを際立たせ、SM的エロさを生み出す一冊です。

W-TITILLATION(にしまきとおる)


パツキン美女親子丼!!!巨乳どころか爆乳・超乳!!!両手に花!!!みんな『BACHELOR』好きだろ!!!みんなではないか!!!俺は好きだ!!!

金髪青目巨乳ヒロインめっちゃ好きなんですがあんまりエロマンガ界に見ないんですよね。ベテラン・にしまきとおる先生の最新シリーズ完結編。ウハウハ感が溢れてます。

にしまき先生のおっぱい、現代的なやわらかさはないんですが、弾力強そうで異物感のある巨乳のどーんとした存在感が大好きです。

人妻、蜜と肉(月野定規)


月野定規作品の魅力は、相手と自分の身体を理解し・操作する技術、「月野生理学」による性的マウンティングにあります。

本作は舞台設定でそれを際立たせます。人妻が若いトレーナーを漁るためのフィットネスクラブ。優秀なトレーナーの細谷と新入会した高村、クラブのオーナー・島津とトレーナー志望の恩田、強者と弱者の戦いがいつもどおり展開されます。

その上で、勝ち残った細谷と島津の頂上決戦が始まるのです。互いにセックスを実況解説し、月野生理学がぶつかりあった結果、オーナーは堕とされます。強者同士だからこそ、マウンティングを取る満足感・取られる惨めさも印象深く、よりエロくなっています。

イジラレ(愛上陸)


2019年最大の話題作・問題作。

本作についてはエロマンガ夜話マンガ論争で詳細に語りました。簡単に要約すると、ジェンダーや性の非対称性を催眠と絡めた点に本作の面白さがある、というのが私の考えです。

特に、孕まされた子への愛をヒロインに植え付け、堕胎できないようにするラストは、「母性」とは社会による催眠だと告発しているよう。ひどくてエロいんですけど、ヘビーな読後感でした。

「犯す人」の事を「犯人」と呼ぶ(香吹茂之)


香吹茂之のSMミステリシリーズ、まさかの続編。今回も大真面目に本格ミステリしてます。

前作から続投の探偵・岡左礼太陽(おかされたいよう)に、『射精なさい…ほら!』のプロファイラー・真理谷四朗がクロスオーバー。W主人公が追う別々の情報がクライマックスで結集し、解決に向かう構成が見事です。

これまで死んでいた設定「時空間把握推理法」を今回はきっちり活用。かっちりクローズドサークルとしてまとめた前作もよかったですが、今作の壮大な謎解きの方が独自性があって好きです。

七彩のラミュロス4(山文京伝)


98年に連載開始した超長編ファンタジーシリーズが、ついに単行本でも完結しました。

山文先生らしい悪堕ち描写も魅力的ですがそれ以上に、長く引っ張った伏線を回収していくアツいラスト、そしてド派手極まりないエロスペクタクルに驚きます。

見渡す限りの群衆が全裸で魔王にひれ伏す様や、魔の波動で世界中の人々が一気に淫乱化する展開は、エロマンガ史上に残るスケールの大きさでした。

まだ間に合う…?(まじろー)


同人誌で好きだった作家さんの商業デビュー作。シュールなホラー連作『KAIKO』が特に好きです。

彼氏の光と旅に出るはずだった主人公・ナタリーが、かつて自分を調教した男、ルイに拉致監禁されます。過去を思い出すナタリーのセリフが強い。「私は私じゃなくて何かの気持ちいいだけの塊」「私は箱の中にはいない/綿は膨らんで飛び散ったわ/そして飛び散った綿はルイが全部食べちゃった…」。

そして後半、彼氏へも責めの手が伸びると、物語はカオスに。お話の論理から解放され、言葉はますます鋭く読者を切りつけます。ちょっと若松孝二を思い出す作品でした。

限界性欲(山本善々)


内面描写と露骨なハードエロを両立させた一作。

本作は、若い竿役のかわいさ・格好良さ・かよわさと、年上ヒロインが彼らにときめき欲情する過程を丁寧に描きます。女性キャラの心理に焦点を当てたエロマンガは結構ありますが、ヒロインの性欲を、日常の延長としてこれほど説得的に追った作品は珍しいのではないでしょうか。

身体の描き方にもこだわりを感じさせます。ぷっくりして大きな乳輪と垂れ気味のおっぱいは、熟女さん好きにはたまらないでしょう。なお2019年には山本先生の同人誌をまとめた単行本『隷属魔王』も出ましたが、神話的テーマの傑作です。


以上です。同人誌を含めると一気に作品数が増えるもんで選ぶのが難しかったです。一冊ごとのページ数もかなり違いますから、来年からは同人誌編・商業誌編みたいに分けてもいいかも。今年もどんなエロマンガを読めるか楽しみです。ではでは。