新野安と夜話のブログ

新野安がマンガやエロマンガについて文章を書いたりするブログ。Webラジオ「エロマンガ夜話」「OVA夜話」の過去ログ紹介も。

2019年07月

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山文京伝『月下香の檻1』(2017)

弊サークルのC96新刊エロマンガ評論本『〈エロマンガの読み方〉がわかる本2』は「NTR特集」と題して、寝取られに関するインタビュー・作品論を納めています。

今回は20年を超えるキャリアを通じて山文京伝名義で寝取られエロマンガを描いてきた山文京伝先生と有無らひ先生のインタビューから一部を先行公開します。

貞淑で真面目な人妻さんが、悪辣な間男の奸計にハマり、人生の道を大きく変えていく……。そんな寝取られの「王道」を行くのが山文京伝作品です。今回のインタビューでは、人の価値観が変わる様、「堕ち」を描く上での先生のこだわりをお聞きしました。


コメディとかもすごく好きなんです


――お二人が共同作業を始めるきっかけは。

山文京伝(以下、山文) 専門学校が同じだったことと、天王寺きつね先生のアシスタントに二人で入ったのが大きいです。その年開校した専門学校でしたがその二、三年後に無くなってしまったみたいです。大層な名前がついたところだったんですが……。

有無らひ(以下、有無) 入って半年ぐらいで辞めちゃったんですよね。授業が面白くなくて学校行かなくなっちゃって。一緒にアルバイトしながら「将来はマンガ家になろう」という話をしてたんです。

山文 同じようにマンガを描いている仲間が何人かいたんですが、学校を辞めたことでどんどん音信不通になっていって、結局二人になりました。

――学校に通っていた頃から天王寺きつね先生のアシスタントをしてらしたんですか?

山文 アシスタントを始めたのはマンガ家デビューした後なんです。学校に行っていた頃は、ネームやらマンガの設定なんかを描きためていたりしていました。学校を辞めて契約社員をしている頃、好きだった天王寺先生にファンレターを送ったことが転機だったんです。「なんか描いたものある?」って先生に言われて、『緋色の刻』(1993~1996)の原型にあたるものを見せたら、「こういうのは本にしなきゃダメだよ、うちで出すから本にしよう」ってすすめられて、その頃は週六日働いていたのでその合間を縫って二人で本を作りました。その後一緒にアシスタントの仕事を頂きました。

――初めからエロマンガ家になるつもりだったんですか。

山文 いえ、そういうわけではなくて描きためていたものはいろいろなものがあったのですが『緋色の刻』を描いたことで、天王寺先生から編集者の方を紹介して頂きそのまま商業を書かないかと言われてデビューしたんです。また長いマンガを描いたこと自体初めてでしたのでそこから手探りの状態でやって、今まで来たという感じです。

――お二人の作業分担は?

有無 二人で話しながら、ああいうものを描こう、こういうものを描こうとか、いろいろ作品のネタを考えますね。

山文 ネームや絵に起こすのはまず私がやりますが、彼の直しが入ります。コンテ段階で、コマ割り自体が変えられてしまうこともよくあります(笑)。セリフの修正もあります。

有無 もともと彼は学生時代アニメ部に所属していたんです。僕は結構マンガを読んでたんで、こういう見せ方のほうがいいよ、演出的にはこうした方が、という口出しをしてます。

山文 あと修正と、カラーは彼の担当です。

――ということは、この絵はどちら、というような分け方ではないんですか?

山文 そうですね。描いたら絵はあまり変わらないように思うんですけど。

有無 昔(学生時代)は仲間にそう言われてましたけど、今はまったく違ってます。僕自身他の作業に追われてキャラを描く時間が取れなくって……もうほとんどキャラ絵を描けなくなっています……。

山文 背景とかも任せています。

――当初は、主にコアマガジンとフランス書院の雑誌で作品を発表されていました。当時の作品は短編が中心で、コメディあり、サスペンスあり、純愛ありと非常にバラエティ豊かですよね。

山文 とにかくいろんなものをまず描いてみようと思ってたんです。当時は自由にやらせてもらえたんですよ。編集の方もこっちが何者かわかっていないので、とりあえず短編描いてみて、くらいの話しかされなかった。やりたいことはいろいろあったので、手当たり次第に自分たちの中にあるネタを出していました。そうすると反響が返ってきて、読者の方々や、編集さんが求めるものがだんだんわかってきました。僕はコメディとかもすごく好きなんですが、あまりウケはよくないんですよ(笑)。以前雑誌に「堕ちものじゃなくてガッカリした」なんてアンケートが来て、そういうのをどさっと見せられたりして。「あの話はウケがよかったから、似たような話をやってくれないか」と言われたこともありました。それで描くと、実際に反応がよかったり……。天王寺先生には君のコメディ好きだよって言って頂けたのですけど。

――同時期の短編集『窓のない部屋』(2000)に「あしたのあたし」という作品が入っていて、映画マニアのレンタルビデオ店員が延々と映画トークをするシーンがありますよね。先生方も映画がお好きなんですか?

山文 結構好きです。

有無 レンタルビデオ屋のアルバイトを二人でやってたんですよ。

山文 お客さんと映画の話をよくしていて……知識がないとおすすめとかできないんですよね。そのシーンは、自分たちの中の情報をそのまま出したものです。わかる人がわかってくれればいいなと思ったんですが、あんまり反響はなかったですね(笑)。

有無 アクションからホラーからなんでも観ましたね。

山文 洋画が好きですけど、邦画も結構観ます。『サマータイムマシン・ブルース』(2005)とか。

――『READINESS』(2008)のような催眠ものでは、幻と現実、あるいは時空間が離れたシーンをつなげて現実感を混乱させるような箇所がありますが、あれもある種の映画っぽいですよね。今敏さんの作品とか、『スローターハウス5』(1972)とか。

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混乱した卑猥なイメージはただの夢?それとも……。

有無 『イレイザーヘッド』(1977)とかね。

山文 面白いですよね。でも、やりたいことがあまり伝わらないんです(笑)。映画的なドラマ性は好きなので、作りの中に入れたいんですけどね。

――当時の作品は、エロシーン以外の部分でもドラマを作ろうとしているように見えます。

有無 ただ、エロシーンが少ないと……

山文 最低限何ページは入れてくれという編集さんもいらっしゃいました。『Sein』(1999)はサスペンス方面に振りすぎて、一回連載終了になり、その後編集さんにOKと言って頂けたので、やりたいように続けられましたが。


「二人だと気が散る」


――「寝取られ」をどう定義されますか?

山文 難しいですよね。いろいろな人にいろいろなこだわりがあって。単純には「愛し合っている領域の中にある人が、そこから逸脱して、別の人、できれば元の領域の人から見て認められない価値観の領域に属することになってしまう」ということですかね。確固たる価値観がある人間が、その価値観をじわじわと侵食されて、間違っているものに変わる。周りから見ても、こんなことを言う人じゃなかったのに、って。価値観の変化と、浮気とか不倫はちょっと違うんですよね。後者は本人の価値観で行うものなので、他者から強引に書き換えられる価値観とは違います。

――「寝取り」と「寝取られ」という言い方には視点の差が含意されているように思いますが、そのあたりはいかがお考えですか。

山文 見方によって「寝取り」作品になったり「寝取られ」作品になったりしますよね。読者の方の読み方で視点が違いますから。ヒロインの視点で読む人、間男を敵とみなして読んでいる人、間男側から見てる人、とか。そればっかりは感じるままに読んでもらうしかないな、と長く思ってます。どの視点でも読めるように、一人一人の心の整合性みたいなものは保っておこうと意識してますね。

――作品やシーンによって、ある視点で読むことを想定していたりはしないんですか?

山文 『山姫の実』シリーズだと、無印は息子、「過程」は母親、という設定はあります。モノローグが多いので、その視点になってるとは思うんですけども。ただ、『山丹花の彩 透子』(2012)で、「堕としブラザーズ」みたいなキャラを出したんですが、堕とし役が二人になると、セックスシーンで感情移入できない、という人が結構いたんです。「二人だと気が散る」と言われて、最初「どういうこと?」と思ったんですけど、「俺以外にもう一人いるのは気が散る」ということらしいんですよね。この作品はモノローグはヒロイン側なんですが、そういう読み方をする人も少なからずいるんだ、視点というのは読み手の人が好きに置くものなんだな、と気づかされた経験でした。

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スーパー堕としブラザーズ。

「寝取られ」としては、やはり寝取られる側の視点は重要だと思います。「焦燥感」、「どうしてこんな奴に」という感情が重要だと思っています。夫より息子を取り上げるのが好きなのは、旦那さんの場合は離婚してしまえば他人になることが可能なので、極端な話、新しいもっと素晴らしい女性を見つければ幸せになることができるんですよ。息子は何が起ころうと息子でしかありえない、縁を自分では切れないですから。新しい母親を作ることはできない。一生母親なので、傷としては一番きついですよね。

母寝取られは寝取られじゃないという人もいますが、自分としては、肉体関係ではなくて精神のつながりが重要なので、寝取られに含めてます。心の絆が断ち切られる、信頼が裏切られるのが寝取られであると思います。

――焦燥感や喪失感がいい、ってのは寝取られが苦手な人には伝わりづらいですよね。

山文 間男をやっつけてくれって人もいますね。旦那がもっと強くて、間男にマウント取ってコテンパンにして、奥さんが泣いて謝って、みたいな……。

有無 最近そういう感想も来ますね。

――そういうマンガはマンガでちょっと気持ち悪い気もしますね……(笑)。焦燥感を演出する方法論といったものはあるでしょうか。

山文 「おかしい」って思うことからですかね。違和感を少しずつ増幅されていくような。いきなり記号的に服装が変わっているとか、髪型が変わったとかいうより、言葉の端々にいつもだったら言わないことが出てくるとか、すごく過保護だった人が素っ気なくなったりとか、そういうのが僕はエロいと思います。大事なものだったはずなのに頓着がなくなっているというか。それに気づいて、焦っていく。

――『山姫の実 真砂絵 零・過程』(2004)のあとがきでは、直接堕ちる過程を見せず、想像させるのが大事、という話も出てきますね。

山文 どんなものでも読者の想像には勝てないと思っています。「とんでもないことになっているな」と想像している時、その人の頭の「とんでもないこと」は、その人独自の「とんでもないこと」なのでそれに勝るものはない。そのためには、必要最低限の情報を詰める、出しすぎないということになります。よくあるじゃないですか、お話が途中で途切れちゃって先が見れない時、「どうなるんだ?どうなるんだ?」と悶々としていて、あとで見たら、「ああ……」って拍子抜けすることが(笑)。自分も、子供時代とかにそういうガッカリを経験したので。

あと寝取られを描く時気をつけているところとしては、初めから色っぽい、エッチな感じのヒロインにはしないようにしてます。いやらしい身体つきをしている、色気があるというよりも、髪の毛は家事に邪魔だからまとめていたり、という人ですかね。下手をすると、「くたびれている」と形容されるくらいがいいかもしれない。別に生活に不満があるわけではなくて、幸せで円満なほうがいいです。女性としてよりも、母親だったり、妻として、家庭の生活という今のカテゴリーに不満はない。そういう人が肉欲とか、粗暴だったり、倫理的におかしい人、なんだこいつっていう人間に心奪われて、そっちの人に好ましいように、服装とかも含めて変わっていくのが好きなんです。初めからエッチだと、違いがないのでちょっと成り立たないかなと。ただあまり地味すぎるとキャラ受けがよくないかなと、難しいですね。『蒼月の季節』は最初とにかく地味にしようと思ったんですが、あんまりモブキャラっぽいのもまずいかなと思って顔が変わっていって、終わった頃に編集さんに「初期の顔のほうが好きでした」なんて言われたりもしまして(笑)。

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『草月の季節』第1話より。

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『草月の季節』最終話より。

――今まで書いてきた中で一番うまくいった、ないし思い入れのある「寝取られ」ものはなんですか。

山文 難しいですね。『沙雪の里』は、その時やりたかったことは出し切れて、最後までやれたのでよかったかなと思いました。他の作品はいろいろと悩んだりすることもあったので。

有無 「寝取られ」じゃないかもしれませんが、一番最初に『七彩のラミュロス』やろうと思った時の思い出が残ってます。本当は第1巻で終わりだったんですよ。ただ周囲の評判もいいということで、好きにやっていいとなったんです。あれもしたいこれもしたいで力を入れすぎて結果単行本を出すのも遅れてしまって。ちょっと長くなりすぎましたね(笑)。やりたいことが増えすぎちゃったんですよね。

――『山姫の実』改訂版(2003)のあとがきに山文先生が、「H系における寝取られの時代は近いうちにやって来る」と書いてらっしゃいますよね。今になって振り返るとまさしく山文先生の予言通り寝取られの時代が来たと言って過言ではないと思いますが、当時から「寝取られ」はジャンルとして成立していたんでしょうか?

山文 僕が『山姫の実』を書いた頃にはまだ、「寝取られ」という表記自体が、エロマンガ業界ではあまり見られなかったです。『伝説巨神イデオン』(1980~1982)とかで、「娘を寝取られた!」みたいなセリフはありましたけどね(笑)。「寝取られマンガ」というものを読んだことがなかったです。自分の奥さんが寝取られた経験を赤裸々に書いている人がいて、フィクションだったのか事実だったのかわからないですが、そういった寝取られ手記みたいなものはよく読んでました。雑誌もありましたけど、主にネットです。その頃は、「お前が情けないだけだろう」みたいにみんな書いた方を罵倒してましたね。悲しいから書いただけなのに、なぜこんな風に言われないといけないのか(笑)、と思ってました。今みたいに、「寝取られ好きな人が、寝取られ体験談を楽しむ」という風潮もなかった。そういったものを読んで、これをマンガでやったら面白いな、自分だったらこうするなという風に思ってましたね。浮気マンガはありましたし、広義では寝取られなんだろうなというマンガはありましたけど、寝取られとして書いている人は私は知らなかったです。ただ私には刺さるものがあって、自分がこれだけ面白いと思うんだから、他の作家さんが面白いと思わないわけないと思って。先に唾つけとこうとして、『山姫の実』で宣言してみました(笑)。

ジャンルとして定着したんだなと思ったのは、「NTR」という表記ができた時ですね。正確にいつ頃かはちょっと覚えてないです。寝取られものがいろいろ書かれるようになって、作家さんが寝取られ寝取られって言うようになって、ネットの中で寝取られについて語られるようになって、とうとう横文字まで出てきたよ、という。

――先生の作品に出てくるヒロインですが、理想の体現者のような人が多いですよね。

山文 それはやっぱり、歪められることを前提としているので、清廉潔白な人のほうがいいです。曲がったことのできない人が曲がったほうに行くのが、ショックがでかいなぁと。初めから振り幅がある人だったら、単に揺れただけで、すぐ戻れるので。臨機応変な人間ほど、そういうことができますから。

――主人公のキャラクター設定で重視していることはありますか?

山文 品行方正、曲がったことが嫌いな人。母寝取られの場合、しっかりした人に育てられたなら、価値観を踏襲しないといけない。「あなたから教わったものを正しさの基準にしてきたのに、あなたがなぜその基準から逸脱するのか」ということですね。夫婦も同じで、周りから見ると可愛らしい夫婦、間違ったことはしない、社会的にも信用があったりするのに、一方が犯罪者とかに惹かれてしまう。昔のドラマだと、自分の妻が強盗の手伝いをしていて、いつのまにか彼といい仲になってたとかあったんですよ。いつのまにか自分の妻が知らないものになっている、みたいな。あと、自分の力で事態を解決されてしまうと成り立ちませんから、主人公には状況を変えるほどの力は持たせられないですね。


サンプルはここまで! この先は『〈エロマンガの読み方〉がわかる本2』でどうぞ!

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ひげなむち『桂さんちの日常性活』(2018)

弊サークル夜話.zipのC96新刊エロマンガ評論本『〈エロマンガの読み方〉がわかる本2』は「NTR特集」と題して、寝取られに関するインタビュー・作品論を納めています。

今回は『おとめくずし』『桂さんちの日常性活』などの寝取られエロマンガ作品で知られるひげなむち先生のロングインタビュー「愛は寝取られに勝つ!」から一部を先行公開します。

寝取られる側がほとんど出てこなかったり、妙にコミカルだったり、雰囲気も明るかったり、絵もかわいかったり、いわば「寝取られ寝取られ」していない……なのにどこかどすんと重い、そんな振り幅の大きさがひげなむち先生の作品の最大の特徴です。今回のインタビューでは、そんなマンガが生まれた理由に迫ります。


『YOUR DOG』を写経しました


――ペンネームの由来は。

ひげなむち(以下、ひ) 見た目の通りです(笑)。学生時代から髭が濃くて友人からも直球で「ひげ」と呼ばれていました。「なむち」のほうは、学生時代に読んでいたあかほり先生のライトノベル『MAZE☆爆熱時空』(1993~1998)の「ナムチ」というメカがお気に入りだったので、当時からハンドルネームとして使っていました。名前のやわらかさから女性と勘違いされることも多いのですが、男性です。

――作品の内容的にも女性説が出そうですね。絵がかわいいですし。

 女性的な絵が自分でも好きなのかもしれません。エロマンガでも、気にいる作家さんが女性だったということが多いです。尾崎未来先生とか、岡田コウ先生、最近だとたらぞお先生とか。あと、関谷あさみ先生。マンガを描き始めるにあたって、絵的な影響が一番大きかったと思います。

――といいますと。

 デビュー前の四ヶ月間で関谷あさみ先生の『YOUR DOG』(2008)を写経しました。開きすぎて割れちゃったのでまた買ってきて、とか(笑)。あの作品は衝撃的でしたね、エロマンガでありつつももっと違うものを描こうとして成功している。しかもそれがエロを邪魔してない。なんでそんなことができるんだ、みたいな。……もう一回読み返したくなってきました(笑)。

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関谷あさみ『YOUR DOG』(2008)

――尾崎未来先生はどういうところが好きですか?

 基本的に女性視点に立っている感じが好きです。あと直近の『The Great Escape 』(2006~2018)シリーズもそうですが、浮気をあまり重く捉えないところが。かわいい女の子だったらそりゃヤられるよ、みたいな。それでいて愛情を失わないというところですかね。

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尾崎未来『The Great Escape 5』(2018)

――ヒロインが積極的に浮気していくわけでも、抵抗するわけでもなく、彼氏との愛情も保持されたままみたいな感じはひげなむち先生の作品に近いですね。

 はい。貞操観念が崩されたとしても、キャラクターの人間性やいいところ、もともとの好意が消えてしまうのはあまり描きません。こちらを好きでなくなったヒロインには、こちらももういいやってなると思うんですよ。そこで寝取られの興奮はなくなってしまう気がして。加えてあけすけな言い方をしてしまえば、そのほうが無惨じゃないですか。元の部分が残っているから、変わった部分がえげつない。まるっきり変わってしまうと別の人になってしまうので。

――岡田コウ先生のお好きなところ、影響を受けたところは。

 まずは直球で、絵がかわいいと思います。熱量のままに描線を増やしていくタイプで、そういうのが絵的な温度・湿度感になってエロいなと。あと女の子が基本的に食われる側じゃないですか。食う側と食われる側がはっきりしている。対等なセックスって自分もあまり描かなくて。主と従がはっきりしていて、いいなと思います。

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岡田コウ『だれにもいえないコト』(2017)

――今挙げていただいた作家さんは大きく言って少女マンガ系のエロマンガかなと思うんですが、少女マンガ自体は読まれます?

 自分はほとんど少女マンガは読まないです。少女マンガの手法は、それを使っているエロマンガを読んで取り込みました。具体的には間の取り方とかですかね。セックスシーンに行くにあたって顔を見せずに耳が赤くなっているシーンだけ描いたりとか、手足のちょっとした仕草だけ描いたりとか。


好きな男に対しての想いも失わず……


――マンガを描こうと思ったきっかけは。

 子供の頃からマンガ自体は好きだったんです。山形の田舎に住んでいたものでアニメがあまり放送されていなくて、本ばかりでした。子供の頃は『るろうに剣心』(1994~1999)とか。中高くらいで『アフタヌーン』系にかぶれて。 遠藤浩輝『EDEN』(1998~2008)とか、沙村広明『無限の住人』(1994~2013)とか、あとあずまきよひこ『あずまんが大王』(2000~2002)とか。

 それで落書き程度のものを描いてはいたのですが、マンガらしいものを発表するきっかけは、同人誌のゲスト原稿を描いてみないかと友達に誘われたことですね。ただ、コマ割りもせず、イラストや台詞だけ置くような形でした。それで初めてエロいものを描きました。サークル名も覚えていないですし、もう手元にもないのですが、アニメ『フタコイ オルタナティブ』(2005)のエロ同人でした。

――その後screwheadというサークルで活動なさいますよね。

 また知り合いから誘われて、最初はエロゲを作ろうという話だったんですがうまく進まず、立ち上げたからには何か出そうということで同人誌を出しました。それが『アホ毛とボイン』(2007)『Maybe Blue』(2007)。内容はゲーム『Fate/stay night』(2004)本で、1冊目はセイバー、2冊目は遠坂凛と言峰神父の話でした。士郎と絡ませないあたりにもう性癖が出ていますね(笑)。

 これはコマもあるマンガの形式でしたが、エロマンガを生活の基盤にしようという意識はまったくなく、趣味の一環でした。兼業作家くらいになれればというぼんやりしたイメージくらいはあったんですが。

――2008年からまいまいまい!というまた別のサークルで同人誌を出されて、これが現在まで続いています。

 screwheadでのPCゲーム制作がうまく行かなくて、暇になった頃にまた別の友人から誘われて。最初は三人でやっていたのですが、いつのまにか個人誌になっていました。

 サークル名は深く考えずに決めたのですが、声優の中原麻衣さんがかわいいっていう、ただそれだけの話で(笑)。同人誌のタイトルも中原さんの曲名からもじっています。

――まいまいまい!での第1作目『雨あがりの塔』(2008)も思い人がいながら傷の舐め合い的に別の人とセックスする話ですが、当時から寝取られとか浮気とかは好きだったんでしょうか。

 とにかくエロいものを描こうと思って自然に出力されたのが寝取られものでした。当時はまだ「寝取られが好きだ」という明確な気持ちはなくて。 はっきり意識したのは第3作目の『Girly*Dreamy』(2009)の頃ですね。この頃すでにPCゲームなどで寝取られが好きにはなっていたかと思います。LiLiM DARKNESS『TRUE BLUE』(2002)にだいぶダメージを受けたり、Autobahnの『妻陥落』(2006)とどちらも寝取られの金字塔ですがこの2つにかなり興奮するということは、寝取られ好きなのかなと意識するようになりました。

――とすると、寝取られとか浮気とかを好きになったきっかけはそれらのPCゲームでしょうか。

 いや、今から振り返ると、一〇代後半で読んだ高河ゆん先生の『超獣伝説ゲシュタルト』(1993~2001)の影響が大きかったと思いますね。ファンタジーものなんですが、主人公の王理が女性で、司祭のオリビエに恋をしています。でも彼が自分の記憶を失ってしまう。傷心のまま、同じくオリビエに忘れられた騎士のシャザーンとセックスするシーンが5巻の最後にあるんです。

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『超獣伝説ゲシュタルト』第5巻より。後の巻で二人がキスしており、関係は切れていないことがわかる。

 五巻分かけてオリビエのことが好きでたまらない描写が積み重なっていたのに、ここで他の男にヤられるという展開が衝撃でした。そしてヤられておいて好きだった男に対しての想いも失わず、でも間男との関係性も進んでいますよね。王理はもともとは男性から女性になったTSキャラで、愛と性欲は別という意識に下世話な話、男としては共感しやすい部分もあるじゃないですか。なので納得はしつつも……まだ寝取られという意識はなかったですけど、なんだかエロいなと思ってましたね。

 他にきっかけといえば、師走の翁先生の初期作に「聖ヨーニ学園風流記 花花世界」(『LOVE』(1998)所収)っていうのがあって。とある男女仲が悪い学級があって、それをなんとかしようと担任の先生が魔法の指輪で女子の身体を大人にするんです。大人の女性の身体になった女子が男子を誘惑していって、ロリショタの乱交状態に。カップル描写もありつつ、乱交もしちゃうっていう感じで、貞操とか気に病みもせずに話が進んでいく様子をおいおい、いいのかよと思いつつ、それをよしとして書かれていて。その明るさゆえの背徳にやられた感がありました。


敗北感や背徳感は描かなくていい


――寝取られが流行ってきたなと感じたのはいつ頃ですか。

 同人誌でMTSPさんがすごくヒットして、受け入れられてる様子を見て寝取られがウケる土壌ができているんだと思いましたね。あそこが一番はっきりしたなと思いました。

――寝取られをあえて定義するなら。

 好きな女性の性が思い通りにならない敗北感かなと。男はバカなので好きな女性の性を自分のものだと勘違いしますけど、そんなわけはなくて。女性にも自分の性があり、意志があり、それを満足させるように行動するのが普通です。そこを納得しきれてないのに、受け入れるしかないという、男の情けない敗北感が寝取られなのだろうなと思います。

――でもひげなむち先生の作品では、敗北感を感じる男性はあまり描写されないですよね。

 自分が描こうとしているのは女性の、「好きな人を無視しても欲しがってしまう性」の部分だからでしょうか。寝取られて敗北感や背徳感を覚えるのは読者の役割だから、積極的に描く必要はあまりないかなと。それに寝取られている女性を見て絶望したり興奮している男を客観的に描くのは賭けの部分もあって。キャラとして登場させてしまえば、共感できるかできないかのジャッジが行われてしまいます。共感できなかった場合がつらいなと。

――先生が寝取られを読むときは、つらい気分を味わいながら読みますか。それともヒロインの気持ちになりながら読みますか。

 どちらもですね。つらいけど納得もする。精力的に食いにきてくれる男がいて、食われる女性がいて、何もしていない男は見ているしかないっていう構図に自分は自然なものを感じますので。

――見ているだけの男性も頑張れば、女性が帰ってくるんでしょうか?(笑)。

 自分の感覚だと彼女に新しい男ができて関係性が増えただけなんです。元の関係性がなくなるわけではないので、そもそも他の男の元に行ってもいない。新しい関係性ができたことに嫉妬して欲しい。例えば自分の彼女が新しい習い事を始めて、そこのトレーナーと仲良くしているだけでだいぶ寝取られ感ってあると思うんです。彼女の新しい関係性を追認するしかない敗北感というか。

――敗北感が良いというのは寝取られが苦手な人に伝わりづらいところです。

 サディスティックなシチュエーションに対して耐えたいというM性なんでしょうね。

 そして物事に対して耐えるには、耐えるに足る理屈が必要だと思います。その女の子が諦めきれないほどの魅力を持っているとか、彼女の自由意志や性欲というものを理解しているとか。それらによって、自分の勝手な独占欲を圧し潰される。寝取られ好きって年長の方が多い気がするんですが、そういった敗北を受け入れた人から寝取られとかを許容するようになるのではないかなと勝手に思ってます。

 ただ、間男が単に寝取るだけじゃなくて、寝取られ男をターゲットとして攻撃し始めると、自分もちょっと違うなとは思います。攻撃には反撃しなきゃってなってしまう。敗北感は敗北を受け入れて初めて感じられるものなので、そこに間男に対するヘイトがあると素直に受け入れづらい。なぜ反撃しないのかという感覚になってしまうので。

――『Girly*Dreamy』はかなり寝取られ的だと思いますが、あとがきに「ビッチ最高!」と書かれています。寝取られというと普通、エッチじゃない人がエッチになってしまう話ですよね。でも先生は、ヒロインは欲望に負けがちだけど、寝取られでもある作品を描かれている印象があります。無理やりエッチさせるというよりは、エッチな女性と男性が集まって、セックスの体裁を繕おうとごちゃごちゃして、結局セフレになる感じの。

 そうですね。元からエロい子に積極的にチャラ男がモーションをかける。そこで彼ら彼女らがセックスのいいわけを用意するというのはよく描きます。いいわけがいいわけであることは本人たちにわかっているけれど、それを理由にセックスを肯定的に考え始めること自体がエロいじゃないですか。

――ひげなむち先生の作品の中に出てくるセックスのいいわけって、「それはおかしいだろ」みたいなものが多い。『おとめくずし』(2013)所収の「彼氏×彼女×彼女」では、百合カップルの片方の子が間男にハマっちゃいます。寝取られたほうの子は当然悲しむのですが、彼女に間男が、あなたが代わりに自分の子を妊娠してくれれば思い人を妊娠から救えるよって言い出す。劇中で登場人物も言ってますが、それは無茶な理屈だろうと。

 無茶ないいわけに納得してしまうのって欲望の表れだと思っていて。がっちりロジックが用意されているよりは、ある程度飛躍してしまったほうが、 その論理に飛びつくくらいメロメロにされているんだという描写にもつながるかなと。


この子たちは幸せになれますよ


――商業デビューに至った経緯についてお聞きしたいです。

 同人誌『Girly*Dreamy』をコミケで売っていたらワニマガジン社の編集さんが来て「うちで書かないか」と、その場で名刺を渡されて。鳴子ハナハル先生が好きだったので、自分も一緒に載れるかもというミーハーな気持ちで二つ返事で受けてしまったんですよね。ナンパがきっかけでした。

――編集さんから作劇や絵の指導はありましたか。

 できているかは自信ないですが、二ページに一回は見せ場を作るようにとは言われました。絵そのものの技術的な指導は受けていないですね。ストーリーに関しても、大筋を変えてこいと言われることはなく、細かい修正が多いです。

――初単行本の『ヒト♡カノ』(2012)、帯の「ネトラレ?いいえ、ナガサレです♡」っていいコピーだと思うんですけど、これはどなたが。

 担当編集です。割と意図を汲んでくれてますよね。さっきも言いましたけど、「別に取られてないから」と(笑)。「ナガサレ」という表現も、防御力ゼロ感がよく出てるなと思いました(笑)。

――ひげなむち先生の作品って、結構世間一般的な考え方からすると背徳的なテーマでも、前後の表現が軽かったりしますよね。「ツーバイツー」と「ワンオンワン」という連作は、チャラいカップルが出てきて主人公カップルがスワッピングに引きずり込まれる話ですけど、お話の最後で堕とす側の組が「調子に乗ってごめんなさい」って謝ったりとか、冒頭でコミカルな表情が出たりしますよね。これはなぜですか。

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「ツーバイツー」ラスト。文字が横書きになりフォントも変わり、コミカルな雰囲気。

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「ワンオンワン」冒頭。ディフォルメされたり記号が使われたりでコミカルな表情。

 これは意識してます。深刻な話にしちゃうと読者を悩ませてしまうと思うので。何か重要なこと、世間的に許されないことに踏み込む時に、そのハードルを上げるような表現を出したくないんですね。構えてしまって、一旦読者さんに考えさせてしまうような要因になってしまうので。読者は作中で提示されたことは基本受け入れてくれると思うんですよ。読者が受け入れないのって一度提示されたことをくつがえすことだと思っていて、ここはこういう世界なんだとか、ここはこういうノリの人たちなんだっていう風に提示されてしまえば、それはちゃんと受け入れてくれると思ってます。例えばコミカルに始まったスワッピングものが、最後にコミカルじゃない、深刻な終わり方をしたらそれはまずいと思うんです。前提をくつがえされたという印象になると思うので。なのでそのあたりは守っていきたい。それと、軽いノリで始まって行われることがそれとは裏腹の背徳プレイという形はギャップがあって面白いと思います。

――一方で、「ペットのいる生活」のこのコマとか、読んでいてドキッとする、本当はやばいぞっていうのが出てくる一瞬があったりする。

 全部が全部軽くしちゃうと軽い話で終わっちゃうってのもありますよね。物事の最初と最後を明るくしているけど、行われていることのすごいこと感、えげつない感じはちゃんと見せたい。「そういうことが行われたとしても別にこの子たちは幸せになれますよ」っていうのを最後コミカル感で出してる感じでしょうか。

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黒い背景も使い暗い雰囲気。

――『おとめくずし』に、「ご拝借!」「ご延長!」「ご返却!」の連作が載っています。ヒロインの倉田さんが1作目でキッとにらんだり、「死んじゃえ/ばかぁ…っ」って言ったり、これまでの作品に比べると抵抗している感じがするんですけど、これは理由があるんですか。


……先行公開分はここまで!この先はC96三日目(8/11) 西こ09b 夜話.zipにて頒布予定の『〈エロマンガの読み方〉がわかる本2』でどうぞ! メロンブックスにて委託分予約受付中!

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コミックマーケット96三日目に、エロマンガ夜話がサークル「夜話.zip」として参加します。

エロマンガ評論集『〈エロマンガの読み方〉がわかる本2』を頒布する予定です。コミケ終わりました。たくさんの皆様にブースに来ていただきました。ありがとうございます。コミケでお渡しできなかった方は、ぜひメロンブックス・BOOTHにてお手に取っていただければ幸いです。

今回はNTR(ネトラレ)特集

表紙

表紙

表紙イラスト:ひげなむち 表紙デザイン:日村克美

目次

  • 序文 「寝取られとはなにか」、という至極どうでもよい問 新野安
  • 人はどう堕ちるのか 山文京伝ロングインタビュー(先行公開中)
  • 山文京伝『沙雪の里』論 『沙雪の里』はなぜ最悪のマンガなのか1 新野安
  • 愛は寝取られに勝つ! ひげなむちロングインタビュー(先行公開中)
  • ひげなむち『おとめくずし』論 「ナガサレ」ヒロインの描き方 ──『おとめくずし』における「本当の欲望」の表現をめぐって── ゆきこ
  • 岡田コウ『好きで好きで、すきで』論  寝取られ少女はお兄ちゃんの夢を見るか? ひかけん
  • Jin『橘さん家ノ男性事情』論 「寝取られるバカな私......」 寝取られにおけるモノローグと自己嫌悪 新野安
  • 特別寄稿 すべてのエロマンガはNTRである! 永山薫
  • 寝取られ重要十作解説 へどばん
    • 嶺本八美『LILIPUTIAN BRAVERY』、東雲龍『LOVE & HATE』、F4U『今夜のシコルスキー』、流一本『僕の知らない彼女の淫貌』、夏庵『オトメドリ』、蛹虎次郎『きゃすとあおい』、緑のルーペ『ガーデン』、甚六『ラブ・レター』、無望菜志『NTR^2』、月野定規『ボクの弥生さん』

頒布形態(予定)

本文136P・白黒

コミックマーケットC96三日目(8/11) 西こ09b 夜話.zipにて頒布(webカタログ

頒布価格 一冊1000円

メロンブックス委託中(通販在庫が完売してますが、コミケ後の補充を検討中です。)

BOOTHにてDL販売中

内容について

2018年のFANZA REPORTによると、最も人気のある同人ジャンルが「寝取り・寝取られ」だったとのこと。そう!世はまさに大NTR時代

インタビューと作品論で「寝取られマンガ」の面白さを考える評論集です。今回も、一冊ずつのエロマンガをネチネチと長文(8000字程度)で考えた論考を収録しました。

エロ同人誌を買い終わった後にでも、ぜひぜひ西こ09b夜話.zipへのお立ち寄りよろしくお願いいたします。これを読まなきゃ寝取られは語れない!!!

正誤表

  • p.23 腹違い→種違い
  • p.65 だか→だが
  • 裏表紙 「作品解説:へどばん」を追加。へどばんさんには大変力の入った原稿をいただいたにもかからわず、誠に失礼な誤りを犯してしまい、申し訳ございませんでした。本正誤表とは別に、直接謝罪もさせていただきました。電子版・増刷版にて修正するとともに、今後の再発防止に努めてまいります。


  • 1: 「読んでてつらい気持ちになる=寝取られとして最高!」という内容です、念のため

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