新野安と夜話のブログ

新野安がマンガやエロマンガについて文章を書いたりするブログ。Webラジオ「エロマンガ夜話」「OVA夜話」の過去ログ紹介も。

弊サークル「夜話.zip」のC102新刊エロマンガ評論本はロリマンガ特集。今回は記事の中から、ロリを「見ているだけ」という極北のプレイを描いた『プロトタイプロリータ』で知られる40010試作型先生のインタビューをお送りいたします。


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――ペンネームの由来は?

40010試作型先生(以下、し) ペンネームは昔、インターネットにあった麻雀のサイト……東風荘ってのがあったんですけど、そのアカウント名を四万十何とかってつけてたんですね。自分の地元が高知というのもあるし、本名にも近かったんです。それをそのまま使ってる感じですね。試作型っていうのは、ホームページを作ったときにとりあえずお試しにってことで、ページの名前としてつけたんですけど、いつの間にかそれが名前みたいに呼ばれるようになっちゃったんです。

――サークル名の壱号というのは?

し 試作型の次なので壱号ですね。

――マンガを描き始めたきっかけは?

し 中学生ぐらいの頃、オタクっぽいものが好きで、落描きとかはしてました。アニメとかはあんまり見てなくて、プラモデルとか模型が好きだったんで、模型誌の「ホビージャパン」とかを読み始めて。そうするとイラストも載ってるんです。『ファイブスター物語』(一九八七〜)とか、『サイレントメビウス』(一九八九〜一九九九)とか。こういうのもあるんだなと思って、だんだんオタクになっていった感じです。ただそのあとしばらく遠ざかってたんです。バンドとかそういう方に行きまして。Xとかにハマってましたね。

 大学を出たあと、コンビニでバイトしていたら、ある日バックヤードのパソコンにペンタブが導入されて、パソコン上で絵が描けたんで、面白いなと思って。それがきっかけで、また絵を描くようになりました。二〇〇三年とか二〇〇四年とかでしたかね。ホームページを作って、イラストや一ページ単位のマンガを描いたりするようになりました。そのあと、同人誌(『フェイトちゃんはそれでもしあわせ』(二〇〇七))を作るぞってなったときに、初めて長いマンガを描きました。知り合いに同人活動されてる人もいたので、ハードルは高くなかったのかもしれません。

――最初エロマンガを描くうえで苦労とかありましたか? マンガの描き方を勉強したりとか。

し いえ、マンガが好きでいろいろ読んでいたので、自然と描けましたね。

――どういうマンガがお好きでした?

し それこそいろいろ、福本先生の麻雀マンガとか、スポーツやファンタジーとか……なんでも読みますね。雑誌も一通り読んではいます。単行本ジャケ買いしたりとかもよくあったんで。マンガ好きですから。

「ジャンプ」を読み始めたときは、『バスタード』(一九八八〜)とか好きでしたね。それまでの「ジャンプ」にない感じの作風というか、細かい線でトーンがぎっしり入っていて、当時の「オタク的な絵」そのものだったんですよね。そういう世界を垣間見せてくれた作品でした。

――商業誌で描くようになったきっかけというのは。

し 「快楽天」の編集さんからお声がけいただいてですね。二〇一〇年くらいでしょうか。

――「快楽天」の作品は同人誌で出てくるキャラに比べてビッチな女の子が多い印象があるんですが、特に編集さんからの指導とかは?

し なかったですね。自分の好きなように描かせてもらいました。自分が一から考えると、積極的な子が多くなりますね。ただビッチ系はさじ加減が難しいところもあって、あまりにビッチすぎると、もう自分の中では冷めてしまうんですよ。なにかしらの境界があって、それを超えちゃうとすごく作り物感が出ちゃうので。

観察する立場こそリアル

――今回はロリ特集なんですが、ずばり、ご自身はロリコンだと思いますか?

し そういう傾向はあると思います。ただ、ロリ系のヒロインを好きになることは多々ありますが、ロリ系だから好きになるということはないかもしれません。どちらにせよ、自分がそういうことをするというよりも、第三者として見てるぐらいがちょうどいいですかね。

――それはどういうニュアンスでしょうか? 一般的に現実と空想をごっちゃにしないという話なのか、それとも見る方がグッとくるという話なのか。先生の作品は、主人公は見るだけ、妄想するだけというのもすごく多いですよね(図)。

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以下特記されていなければ『プロトタイプロリータ』より引用


し ……両方ですかね。マンガに書いてるとき、主人公が自分の代わりにロリとヤるというのは、なかなか想像つかないです。そんなのダメでしょう、って思いもあって、いまいち現実味がないといいますか。だからいつも観察する側のマンガになってしまうんです。そっちの方が代弁者として考えやすいですから。

――触れられないものとしての少女、っていうのはロリマンガでよく出てくるテーマだと思うんです。でも先生の作品だと、主人公が見ているだけだったとしても、なんのシリアスさもなく普通に触れている人たちもいる。そこがユニークですよね。

し そうですね、ロリを神聖視はしてないと思います。自分とは関係ない世界の話ではあるけど、犯罪とはいえ、触れてる人はしっかりいますから。見るぐらいならいいけど、触れはしない、みたいな感覚ですかね。

――ロリのどういうところが好きですか? 見た目とか、精神的なところとか。

し そうですね、中身よりは見た目かもしれないですね。成長過程、一瞬しかない的なところが好きです。細いのがいいかなって思います。ガチの感じ、玄人好みな感じは自分はちょっと苦手です。イカ腹とか、子供っぽいモコモコとしたパンツはあんまりピンとこないです。だから描き方としては、「小さくなった大人」かもしれないですね。スレンダーで細くて小さい女性といいますか。

――スレンダーな子を描く上で、何かこだわりはありますか?

し 自分は鎖骨や肋骨が好きなので、そのあたりをうまい具合に書けたらなと。骨の感じをうまく出せたらと思ってます(図)。腰骨が難しくていつも四苦八苦してますね。あと鎖骨やあばらって、あまりにしっかりラインを出すとガリガリっぽくなっちゃいますよね。それは嫌なので、あくまでうっすらと主張する感じにまとめたいです。

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――女児服にこだわりがありますよね?(図)

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下は『プロトタイプ マドモアゼル』

し 服にはできるだけリアリティを持たせたいです。単純に好きですし。画像検索したり、小学生向けのファッション誌をAmazonで買ったりとかして(流石に書店では買えないので……)参考にしてます。エロ衣装というより、ちょっとおませな服、みたいなのが好きですね。

 小物をたくさん書いたりしてるのも、「神は細部に宿る」と思うので、目が届く範囲は細かく描写するようにしてます。他の作品を読んでいても、細かいところにこだわっているほど現実と地続きな感じがして、より没頭できるし、興奮できますね。みなすきぽぷり先生とか、女性作家さんの作品とか、勉強になります。

――このスカートとか、ジーンズ生地や水着の質感とかも……大変なんじゃないでしょうか(図)。

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『MAGICAL☆IV』より

し 結構カロリーかかります。ただここで手を抜いちゃうとぜんぜん違ってきちゃうので、多少しんどくてもやりたいなって思ってます。

――服の描き方のハウツーみたいなものってありますか?

し うーん……難しいですね。一番は実物を、資料写真をちゃんと見て描くってことですかね。何か頭で描いても、なかなかそれはうまくいかないですから。皺の一つ一つまで何かを見てってことはないですけど、できるだけ嘘に見えない様に、ちゃんと何かを見て描くことですね。

 あと個人的に服を描くときに気を付けているのは、縫製の線ですね(図)。そこをしっかり描くと、途端にリアリティを帯びるんですよね。ちゃんとした服だっていう感じがします。

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元々「NOタッチ」に共感していた

――ロリ特集ですから、単行本『プロトタイプロリータ』の話に行きたいと思います。「LO」で書いたきっかけはなんですか?

し メールを頂いて、って感じですね。「快楽天」と同じで、特にディレクションもなく、好きにやらせてもらいましたね。

――「LO」で描かれた作品って、目の前のロリがどんなにエッチな様を見せていても自分は見てるだけ、っていうテーマが一貫してると思うんです。いわゆる「YES!ロリータ NO!タッチ」(「LO」の有名なコピー)ですよね。「LO」のカラーとかは意識されましたか?

し いえ、なかったですね。「LO」で描くなら、ではなく、ロリを描くなら、という感覚かもしれません。別の雑誌でもこうなっていたと思います。もともと「YES!ロリータ NO!タッチ」に共感するところではあるといいますか、結果的に一致したっていうことです。

――カバー下で散乱しているカメラやスマホの中に、「LO」のスローガンらしきものがあるんですが(図)。

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し そうですね、これは「LO」の意見広告から使わせてもらってますね。作品に合ってるかな、と思って。

――もともと「LO」って読んでらっしゃいました?

し もちろん「LO」好きですよ。好きな作家さんもいっぱいいます。それこそみなすきぽぷり先生とか、東山翔先生とか。

――そのお二人は、緊張感のある作品を描かれる方ですよね。お気楽ロリエッチという感じではなく。

し そうかもしれないです。やっぱロリだとラブラブな感じはストンと入りにくい。ちょっと暗さやピリっとした感じがあった方が、現実味があっていいと思います。

――先生の作品って、非常に凝ったシチュエーションが多いと思うんですね。『プロトタイプロリータ』なんて、普通にエッチしてる作品は一つもないじゃないですか。子供のチラリを窃視しているつもりが、すべて見せられていたっていう「放課後はみんなで」(図)。「相馬さん」シリーズは、教室で大輝君にセクハラされて悪態をつき続けるけど絶対に抵抗しない相馬さん、クラスメイトはみんな見てるけど何も言わない、なんでこうなったのか理由は一切わからないっていう。シュールな緊張感が漂ってます。読んでいて、これを描いている方は一〇年に一度の傑作を描くつもりで描いているに違いない、っていう風に思わされるタイプの作品でした。そういう野心みたいなものはありました?

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し いや、それはないですね。特別違うことをしてやろうということはなかったです。「相馬さん」なんかは、ああいいものができた、とは思ったんですけど。でもみんなにすごいだろうって見せてやりたい、という気持ちはないです。

 ただ、思いついたものをそのまま描いても、面白くないなとは思います。何か足さなきゃなって。ポリシーや方法論があってというよりは、作品ごとにひねり出して、アイデアを足した結果そうなってるんだと思います。

――アイデアノートとかを作ってたりしますか?

し いや、作りたいんですけど……書いたものをあとから見たらなんだこれってなることが多いです(笑)。結局、プロット出してくださいって言われたときに考えてますね。そこであとからいろいろ足していく感じです。

――書き(描き)なおしは多い方ですか?

し そうですね、割と多いと思います。ネームやプロット段階で、アイデアを組み立てなおすことはよくあります。あとネームとして編集さんに出しちゃったセリフを、あとの段階でちょこちょこ、細かくいじったりもしますね。てにをはを直したりとか。

最初のアイデアは普通でも……

――ちょっと突拍子もない話かもしれませんけど、先ほど言及した「放課後はみんなで」。この作品って、『アカギ』みたいな心理戦だと思うんですね。誤って倒した牌を覗いたつもりが、わざと見せていた、みたいな(図)。麻雀がお好きで福本作品も読まれるということで、影響があったりするのかなと勝手に考えたんですが……。

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『アカギ』2巻。

し いや、自分で描いてるときはそんな認識なかったです(笑)。お話を聞いて、そういうふうな受け止め方があるんだなと思いましたね。

――非常に緻密に設計された作品という印象を持ったんですけど、そういうわけではなく。

し そうですね、割と自然にです。面白くて、いい感じにしようと思ったらそうなりました。ただ、あまりポンポンと普通にお話を運んでも、面白くないというのはありますよね。緊張感というよりは……なんかふんわりとはさせたくないといいますか。何も裏がない感じというよりは、何が起こるんだろうっていう方が、面白いしエッチなのかなと思いますね。

――どう構想されていったんですか?

し 最初はもっとライトなお話だったと思います。みんながセックスしてるのを先生が見ちゃって、参加する話です。そこからいろいろ変えていって、最初はチラリだけだったのが、別の日には目の前で男の子と前戯を始めて、先生はそれを目撃してたつもりが見せられていて、みたいな話が加わっていきました。

――それはやはり、最初のアイデアだと何か違うなと思われた。

し いや、違うな、と思ったわけではないです。むしろ、膨らませていった結果ですかね。

――「相馬さん」シリーズはどうですか。

し これも結構難産ではあったんですよね。最初は普通に教室で、みんなにばれないようにエッチする、っていうのを描きたかったんですけど、うまくいかなくて。あとになって、みんな知ってるけど何も言わないっていう設定を加えたら、すっとできたんです。

――なるほど。最初は比較的普通だったんですね。

し そうです。ネームが進まないというか、いまいちHな感じにならなかった。

――相馬さんと大輝君の不思議な関係はどの段階で?

し この二人は最初からこういう感じでしたね。

――大輝くんがショタながらイケメンじゃないですか。ひどいセクハラをしているけどもちゃんと避妊したり、大人にはバレないようにしたり、相馬さんに気を使っている感じもします。僕(新野)なんか結構キュンとしちゃうんですけど(図)、読者をときめかせようみたいな意図はありました?

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し いや、あんまりなかったですね。かわいい男の子描こうというつもりは別になかった。こういう話ならこういうキャラかな、と思って描きました。……今思えば、相馬さんが抵抗せずにセクハラされる設定で、竿役を雑に描いてしまうと、相馬さんの魅力も一緒に落ちてしまう気がしますね。描いた当時の実感としては、なんか悪いイケメンで、男ウケ悪そうになっちゃったなってくらいです。

――この二人がなぜこんな不思議な関係になっているのか、説明しようとは思わなかったんですか?

サンプルはここまで!この続きは本編で。

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弊サークル「夜話.zip」のC102新刊エロマンガ評論本はロリマンガ特集。今回は記事の中から、『死なずの姫君』や『Xenogearsのエロいラクガキ本』シリーズで知られるモチ先生のインタビューをお送りいたします。表紙も担当して頂きました!

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自衛隊に居ました

――ペンネームの由来からお聞きできればと思うんですが。

モチ先生(以下、も) 最初ペンネームを考えるときには変わった名前をつけようと思って、「ほたてGUY」という名前で少しだけやったんですけど、恥ずかしくてすぐやめちゃいました(笑)。単純ですが、小学校からのあだ名がもちだったんです。今から考えると、もっと変わった名前をつけておけば検索しやすかったんですけどね。

――ジェームスほたて先生とかいらっしゃいますからね(笑)。サークル名のRINというのは。

 飼ってた犬の名前ですね。亡くなった後も、忘れたくないなって思って、はい。これも何も考えずつけたから、検索しにくい(笑)。

――絵やマンガを描き始めたきっかけは。

 絵という範囲だと、四歳ぐらいまでさかのぼりますね。親が『宇宙戦艦ヤマト』(一九七四)のVHSを持ってて、それをずっと見てたんですよ。父親が、チラシの裏とかになんかちょちょっとヤマト描いてくれたので、自分も描きたいと思って。右側にヤマト描いて左側に敵の宇宙船描いて戦わせるとか、そんなことばっかりやってたんですよ。だから幼稚園から小学校上がる頃には同級生の子より絵がうまかったんですよね。それで得意になっちゃって。

――お父さんの英才教育の賜物なわけですね。

 やっぱり自分の親の世代って、軍国少年物のマンガとか多かったんです。ちばてつや先生の『紫電改のタカ』(一九六八)とか、松本零士先生の戦記ものもいっぱい家にあって。あと『エリア88』(一九七九〜一九八六)とかですね。それで影響受けて、戦闘機パイロットになるんだって自衛隊受けたんですけど。


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――自衛隊に居たんですか!?

 そうなんですよ。ほんの一時ですが搭乗員ではなく航空機整備してました。

 高三で自衛隊の試験を受けて、一般空曹候補学生というのには受かっていたんですが、パイロットにはなれそうもなくて。ちょっと乱視が入ってたんですよね。他に絵の道にも興味あったんで、美大受験するか、と。美大志望の人って、東京の大学をみんな目指すでしょう? 武蔵野美大だとか多摩美大だとか。絵は得意だったから、どこだろうと自分は受かると思ったんですよ、うめえしって(笑)。

 それで予備校行って初めにデッサンの課題を描いていたら、先生から「もういいよ君」「来るの遅いよ」みたいに言われて。きちんと絵を勉強したのは高三からなんですよね。ムサビの油彩画一本で受けたんですけど、あっさり落ちちゃって。自分には才能はあると思ってたのに、全然そんなことないってわかっちゃったんですよ。それで自衛隊に行ったんですけど、しばらく勤務した後に、やめよう、もうこれは駄目だ、ってなったんです。

――パイロットになりたくて。

 飛行機は元々好きだったんで航空機整備の仕事も興味持って頑張れるかなとは思ってたんですが、人間関係や生活環境への不満みたいなものも少しあったのと、先の人生考えたときにもっと自分のやりたい道を追求してみてもいいのではと考えて……で、辞めるなら早い方がいい、もう一回美大を受けようと。そのときはもう東京の大学にこだわりは全くなくて。近いとこでいいやって感じで、名古屋芸術大学(名芸)に行きました。

名芸の錚々たる先輩たち

 そこの漫研が、まんま『げんしけん』みたいなとこだったんですよね。マンガやイラスト制作はそこそこに、授業の合間にみんなで集まってゲームして。そこに金曜とか土曜とか夜まで残ってるとOBの先輩が来るんですよ。その中にA先生(編集注:仮名。作家からも読者からも熱い支持を受けるあの作家さん)や、RAITA先生とかいたりして。

――とんでもない(笑)。お二人ともエロマンガ界の重鎮じゃないですか。

 その人たちに影響を受けるわけです。さらに上の世代の山下いくと先生もたまに来てくれて、ちょうどエヴァの新劇場版を作ってる時期だったんでお話聞く機会もあったりして。自分が一番うまいと思ってたのに、上の世代の先輩たちが、自分ではひっくり返っても描けないようなものを描いている。衝撃ですよね。

 そんな中先輩が同人イベント参加するらしいから、自分たち現役部員も一枚ずつ寄稿して合同誌作ろうよって話に。名古屋の小さなイベントだったんですけど、友達の家に泊まり込んで、初めてエロ原稿描いてみた。そしたらそれがすごい売れたらしいんですよね。自分が携わったものが人の手に渡って、売れたって経験をした。

 そういう経験を経て自分でも同人誌を作りたくなって、1年生の冬にはサークル作ってました。だから一般向けをやる選択肢はなかったんですよね。みんな描いてるからエロが当たり前。やっぱり少女絵描いてるだけで中学、高校だとやいやい言われるわけですよ。でも美術系の大学で、萌え系が流行り始めた時代だから、そういうのを全然誰も咎めない世界。そういう解放感の極致としてエロマンガがあって、魅力的だったんです。

――トキワ荘・大泉サロン的なものがそこに。

 漫研とは関係ないですが、名芸のクラスの同級生に『ヒロアカ』作者の堀越耕平さんもいました。(教室で延々とマンガ描いてたのを見てた記憶があります。)

一番じゃないと見てもらえない

――先生の初期の作品を見ると、作品ごとにどんどん画面の情報量が増していってる印象(図)を持つんですが、これはなぜ?

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以下特に記載がなければ『死なずの姫君』から引用

 そうですね、大学2年の夏ぐらいに作った本を見て、キルタイムコミュニケーションの編集者さんから声をかけられたんです。初めて商業で描くことになったんで、これまで出たアンソロジー本を何冊か送ってもらったんです。そのとき思ったのが、自分がすごいなと思ってた「メガストア」とかに比べてちょっと絵が薄いなって。グレースケールやトーンを貼ってるんだけど、のっぺりしてる印象があって、線も細くて。

――当時の「メガストア」は濃かったですからね。

 それで最初に思ったのが、実力差を見せつけないといけない、差をつけないと目立たない。予備校時代、デッサンしたら教室の前に並べられるんですよ。みんな同じようなモチーフを描いてるから、圧倒的なうまさがないと目立てずに埋没してしまう経験を思い出して。デッサンのとき、最初言われたのが薄い、量感とか質感とかちゃんと見て、ってことでした。それをマンガに落とし込んで、ベタとか入れて重さを出してみたいなことを、デジタルに手を出し始めたころはPhotoshop 6.0とかでやって、地獄のような作業量でしたね。

「闘姫一人餓鬼千匹」(掲載二〇〇七)(『鬼華無惨』(二〇一四)所収)のあたりでメガストアから声かけられて、『死なずの姫君』(二〇一三)の連載スタートですね。このあたりでComicStudio 3.0を手に入れた。そしたらトーンが網点になるんで、マンガっぽくなって嬉しくて。そうなると、一般紙みたいなペンの入れ方をしたら映えるかなって。デジタルで作ってるんだけどデジタルっぽくない画面にしたいってずっと思いながら。

――このあたりの作品は、今に比べて画面がハイコントラストで、線も太いですよね。

 ベタッとした画面にしたくなかったんです、空間をとりあえずグレースケールで埋めていくみたいなのは嫌だった。濃い画面でも、立体的にしたかった。

――汁とか集中線とかでも情報量を足されてますね、当時の作品は。

 うーん、書き込めば書き込むほど良くなるっていう宗教にハマってたのかもしれないですね。今でもそうなんですけど、空間恐怖症だったかも。当時、編集さんとか先輩とかに、読みにくいって言われたんですよ。でもある雑誌に載ったらその中で絵が一番じゃないと見てもらえない、載るからには一番じゃないと、っていう思いがあったんです。

――キャラクターデザインの話をお聞きしたいんですが(図)、これも当時と今で大分違いますよね? 当時は九〇年代っぽいというか、『スレイヤーズ』(一九九五)とか。

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 まさにその通りというか。九〇年代の流行りの絵が好きだったんです。子供の頃は鳥山明先生ののキャラデザとか好きだったのでよくドラクエのイラストとか描いてました。

――『ゼノギアス』(一九九八)の田中久仁彦先生の話もよくなさってますよね。

 中学校のときに『Perfect Works』(『ゼノギアス』の資料本)とかを見て、模写してたんですよね。自分の無意識になってます。キルタイムに載った最初の本でも、ヒロインの鎧とかを久仁彦先生風にデザインしたりしました。

印刷技術の進化に合わせて

――ここから今の絵柄に変わっていくわけですが、ご自身で意識して調整したりしたんですか?

 頑張って変えてたのは多分死なずの姫君の……8話くらいかな。手癖で描くのはやめようと思って、丁寧に変えていこうと。キルタイムだと「闘鬼凌辱」とかですかね(図)。自分の中でも気になってたんですよ、ちょっと絵がマンネリ化してるなと。何とか変化をつけたくて、それが二〇〇九年とか二〇一〇年とか、その辺ですかね。鼻とかも、とりあえずのくの字じゃなくて昔のマンガっぽい、三角の影で描いてみたり。鼻の穴も描いてみたりとか。

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 周りの作家さんもどんどんアップデートしていて、段々三次元ぽい絵になっていたイメージでした。新貝田鉄也郎先生の『女子ショー』(二〇〇九)(図)とか。あとヒヂリレイ先生の『UK』(二〇〇三)(図)、柔らかい肌に指が沈み込むような表現を見たときに、これは自分のものにしたいと思って、ずっと意識してます。それと鉄板ですけど胃之上奇嘉郎先生。昔の単行本で『NO MERCY』(二〇〇二)とか。そういう3D的なスタイルに合わせていくうちに今みたいな絵柄になったって感じです。

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――このあたりで、グレースケールを使うようになるじゃないですか。モチ先生と言えばグレースケール使いの繊細さだと思います。これも3D感ということで?

 いや、saiで描き始めたのがきっかけですね。線の描き心地がすごくいいんですけど、網点のトーンがないんですよ。だからもうsaiでグレースケールでよくない?みたいな。

 もう一つ、もともとグレースケールって綺麗に印刷に出なかったんですよね。安い印刷所にお願いするとグラデーションが飛んだりとか、雑誌でも「ホットミルク」みたいにコンビニ雑誌だと、黒いとこは結構滲んじゃう。ただこの(「ホットミルク」に載った)後ぐらいから急に雑誌でも紙がよくなったんです。印刷所とかもすごい綺麗になってきたんで、もうこれグレースケールでいけるんじゃない?と思って。技術が上がったらこっちが抑える必要ないよねって。

 僕の同人誌でも、グレースケールをガンガンやってるときって、上質紙じゃなくてマットコート紙を使ってるんです。つるつるしてるでしょ? そうすると黒もグレーも綺麗に出るんです。しばらくハマってました。

――時期が飛びますが、スライム娘がヒロインの『ぷるはだ魔物娘』(二〇一九)(図)とか、もう超絶技巧ですよね。

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 これはかなり実験的で、従来の常識だと絶対にモワレるやり方でやってるんですよ。ハーフトーンの上にグレースケールを乗せて、さらにその上からグラデーションかけちゃうみたいな。女の子の肌はグレーだけど、透過したりする男の肌は網点だったり。やっぱりグレースケールってちょっとのっぺりするんで、男の肌とかは本当はザラザラさせたいんですよね。

 昔の話に戻すと、ゼノギアス本の2(二〇一〇)くらいで売れ行きが良くなって、落ちカゲとかスミだまりとかガンガン入れて、ほとんどトーン貼ってないんですけど、画面が重くなるようにしたんです(図)。こういうので情報量が上がるんで、この後からイベントでもお客さんが並ぶようになってくれましたね。

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――でもゼノギアス本の4、5(二〇一二、二〇一三)あたりから、今度は画面がシンプルに洗練されていく印象があります。線も細めになるし。

 体力がもはや続かなくて……線が細くなってきてるのも、筆圧も弱くなってきてて、狙ってやってるわけじゃないんですよ。ちょっと迫力がなくなってきたよねとか、昔の方が良かったなってたまに言われてました。他にもいろんな側面があって、昔は解像度低くしないと、性能的にパソコンが持たなかった。でも今はもう平気で4Kを超えるような画像が作れちゃう。すると必然的に同じペンの設定だと線が細くなるわけですよ。そういう右往左往の結果、あっさりした画面になったりしてるんだと思います。

おっぱいはもういいや

――転機とおっしゃっていた二〇一〇年から二〇一一年で言うと、『死なずの姫君』の8話でキャラクターが突然ロリ化しますよね。ここから先生の作品がロリに寄っていく気がしてるんですが、なにかきっかけがあったんですか?

 たぶん大きな転機が『死なずの姫君』の7話で、大きい女の子が出てくるんですよ(図)。

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 これ、自分の趣味じゃなくて編集さんの意向だったんです(笑)。最初は背も小っちゃくて超ロングの妹キャラだったんですけど、「モチくん、もっと髪を短くして、お姉さんっぽいの出してよ」って言われて、「まあいいですけど」。それで、一生懸命描いたんですけど、描いて思ったのは……なんか……頑張ったけどもういいやって(笑)。その反動が次のロリ化なんですよ。向いてない仕事を一回やると本当に自分のやりたいことがわかって迷いがなくなることあるじゃないですか、それです(笑)。

――自衛隊のときと同じで(笑)。ロリを描く上でのこだわりとかありますか?重要なパーツとか。

 一番気をつけなきゃいけないところが腰。大人と子供で一番変わるところって腰が発達してるかどうかだと思います。男性が女性に感じる魅力の大きなところって、くびれなんですよね。子供ってないんでそれが。

 ロリが好きって言っても、女性らしいくびれをつくりがちなんですよ。女性らしい体を捨てて、それでも魅力的に描くのって、成功したらものすごいですけど、失敗すると貧相な体でしかない。贅肉がないのに柔らかく描かなきゃいけないとか、相反するものを両立させなきゃいけなくて。それの最たるものが腰。おなかから腰、足にストンと落ちていくラインで……。描き方を模索して、まあ苦労しました。

サンプルはここまで!この続きは本編で

コミケ102新刊は…

やるなら今しかねえ!

『〈エロマンガの読み方〉がわかる本7 特集:ロリータ ~21世紀のロリマンガ~』!

ロングインタビューはモチ・40010試作型・ドバト

LO文学からバチボコロリ凌辱まで、ロリマンガのすべてがわかる特集!

「がるまに」解説やスカトロ入門記事もあるよ。

表紙

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目次

  • インタビュー
  • 長文評論 ロリマンガ名作館
    • 少女には見えない世界 雨がっぱ少女群『小指でかきまぜて』 たかだ
    • これは夏のロリマンガだ クジラックス『ろりとぼくらの。』 ぽわとりぃぬ
    • 諦念した男が美しい少女とアクセスする唯一の方法 佐々木バレット『天使を買った日』 たまごまご
    • 夜子には「距離」が必要なのよ 砂漠『真夜中の夜子さん』 安原まひろ
    • 観ることはできても触れられない少女たち 40010試作型『プロトタイプロリータ』 たまごまご
    • セックスしても出られない部屋で ドバト『平成JC in 明治夜這い村』 氷上絢一
    • 生まれおちた罪、そのつぐない 町田ひらく『町田ホテル』 吉行ゆきの
    • 存在の、至福の軽さ みかんR『わたしの肢躰』 吉行ゆきの
    • パワフルに、そしてゴージャスに モチ『IN LOVE AGAIN』 新野安
  • ロリマンガマップ
  • キーワードで読むロリマンガ 新野安、たかだ、たまごまご、氷上絢一、ぽわとりぃぬ、吉行ゆきの、ゆきこ
    • インピオ/きいろいたまご『青春ホリック』
    • 海外/荒田川にけい『おひさまはまわる』
    • カリスマ/てるき熊『ひなひな』
    • キツネ/太ったおばさん『出会って4光年で合体』
    • 思春期/ぬまたちひろ『思春期異聞録』
    • たいはて/たいぷはてな『チマメ隊が食べ頃だったので美味しく頂いちゃいました♥』他
    • 母性/ハッチ『じぇいえす』
    • バブみ/けれの『実娘が小学生アイドル遊佐こずえちゃん11才』
    • ロリビッチ/さらだ『しょうびっち』他
    • ジュニアアイドル/メラメラジェラシー『幼形成熟』
    • メスガキ/朝凪『VictimGirls』
    • 女性向け/Sサイズ『またたび荘のシロくん』
    • フェミニズム/野際かえで『おもちゃの人生』
    • 風俗/木谷椎『泡のお姫様』
    • 画力/あしか『もぺっと』
    • 令和/和田羽烏『ひとけたっ子♡あどラブる』
    • 刺青/村雨丸『幼妊図鑑』
    • 妊婦/林原ひかり『少女の方程式』
    • 単純所持/EB110SS『めっちゃ♡リアル♡みせちゃう』
    • ペド/目高健一『乳欲児姦』
  • 雨山電信のいいからエロマンガ全部持ってこい! 雨山電信のスカトロブートキャンプ
  • 新野安の ヤるだけマンガが読みたい夜に 「異形」としての女――野口摩擦
  • 女性とエロマンガ、そしてDLsiteがるまに 青柳美帆子
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各種情報

正誤情報

  • P.122 誤:コデインゴール 正:コデインガール

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